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カスタマーエクスペリエンス
デジタル時代の顧客ロイヤリティとは?
近年拡大するデジタル化と共に変わる顧客ロイヤリティの形やそのメリット・向上方法、そして顧客ロイヤリティ構築において意識すべき3つのことを紹介します。
なお、本記事は英文記事”How to Build Customer Loyalty in the Digital Age”を日本語訳し、一部改変を加えたものです。
はじめに
顧客ロイヤリティの「ロイヤリティ Loyalty」は、英語で「忠誠」「絆」「愛情」などのニュアンスを持った言葉であり、顧客ロイヤリティを一言で表すと、顧客が企業やブランド、その商品やサービスに対して感じる「信頼」や「愛着」のことです。
テクノロジーの発展は、企業がウェブサイト訪問者や顧客の行動履歴などの把握を可能とすることで、ターゲットオーディエンスに対しての理解を深め、その結果、顧客により優れたアプローチを取ることができるようになりました。しかしながら同時に、企業の顧客ロイヤリティにも変化が生じ、ビジネスのあり方に影響が出ています。
そもそも顧客ロイヤリティとはどのようなものなのでしょうか。本記事では、顧客ロイヤリティの定義やメリットについて説明し、デジタル時代における顧客ロイヤリティについて説明します。
顧客ロイヤリティとは
顧客ロイヤリティは、冒頭で紹介したように、顧客が企業やブランド、商品やサービスに対して感じている「信頼」や「愛着」のことです。企業やブランドに対して高いロイヤリティをもっている顧客は、他の企業やブランドの商品やサービスの方がが魅力的であっても、そちらに流れにくくなります。
顧客ロイヤリティと似た言葉に顧客満足度(CS)がありますが、顧客満足度は商品やサービスに対する満足度のみを指しているのに対し、顧客ロイヤリティは商品・サービスの購入前後の体験全てを通した総合的な評価から導き出される情緒的な結びつきを指しています。顧客満足を継続的に達成した結果、生み出されるものが顧客ロイヤリティなのです。
顧客ロイヤリティ向上のメリット
顧客ロイヤリティを向上させるということは、簡単にいうと顧客との関係を育んでいくことで、その結果生まれるものが優良顧客(ロイヤルカスタマー)です。ここでは、優良顧客の存在に注目して顧客ロイヤリティ向上のメリットを紹介していきます。
1. 効率的な収益の確保
優良顧客は、一般の顧客と比べて多くの商品・サービスを購入し、企業に多くの収益をもたらします。ほどんどの場合、優良顧客は一般顧客と比べて購入頻度や購入単価が高いです。「20%の優良な顧客が企業の売上全体の80%を担う」というパレートの法則(20:80の法則)からも分かるように、優良顧客は企業の効率的な収益確保を支える存在となります[1]。このような優良顧客は多ければ多いほど、企業にとってメリットとなります。ただし、ここでいう優良顧客の中には、企業やブランドに対するロイヤリティは低くても、ある程度商品やサービスに満足し、他者に乗り換える必要性を感じずに継続的に商品やサービスを利用している顧客が存在します。このような顧客は、ある時一斉に競合他社に流れていってしまう危険性があります。
2. 企業の財政負担低減
ハーバードビジネスレビューの調査によると、新規顧客獲得には顧客維持の約7倍の費用がかかるため、顧客離反は企業にとって大きな痛手となります[2]。特に、現代では、顧客が多くの知識や情報を容易に入手できるため、企業に昔から親しんでいる顧客でも、サービスに一度不満を抱くと競合他社に乗り換える可能性が格段に高まっています。PwCの調査では、アメリカでは悪いカスタマーエクスペリエンスを1回受けただけでも17%の顧客がブランドから離反するというデータが出ています[3]。しかし、顧客ロイヤリティを高めることで、顧客と企業やブランドの間に情緒的なつながりが生まれ、顧客離反を止めることができます。顧客維持よりも新規顧客獲得に重点を置く企業にとっては、顧客離反は大きな問題ではないように思われるかもしれませんが、新規顧客獲得コストを考えると、顧客ロイヤリティを育み顧客維持に力を入れる方が、多くの企業にとって有効であると言えるでしょう。
3. ブランドの評判向上
【最新版】 カスタマーエクスペリエンス(CX)とは?わかりやすく解説にて紹介しているように、顧客ロイヤリティを育むことは、ポジティブな口コミの拡散にもつながります。消費者が時と場所を問わず情報発信できるようになった現代では、高いロイヤリティを持った顧客がブランドについてのポジティブな情報を簡単に発信することができます(逆もまた然り)。つまり、顧客ロイヤリティの向上を向上させることで、結果的にブランド力の大きな向上につながる可能性が一段と高まったと言えるでしょう。
顧客ロイヤリティの向上方法
それでは、顧客ロイヤリティを高めるためには何ができるでしょうか。、現代では、オンライン上で便利かつ容易に多くのサービスを受けることができるようになり、この変化と共に顧客ロイヤリティもその形を大きく変えてきました。顧客自身が多くの知識や情報を手にした今、企業がこれらの資源を顧客よりも使いこなせていなせれば、企業は上手く顧客ロイヤリティを向上させることはできません。このようなデジタル時代に、顧客ロイヤリティを向上させるには、優れたカスタマーエクスペリエンス(CX)の提供が不可欠です。顧客ロイヤリティの欠如によっておこる顧客離反の理由として、製品の価格設定や品質の問題の他に、カスタマーエクスペリエンスに関するものは多く存在します。
ここでは、カスタマーエクスペリエンスに注目して、デジタル社会において顧客ロイヤリティを向上させるためのアイデアを3つ紹介します。
1. SNS活用
顧客の情報発信が容易になったことは既に紹介しましたが、その主な舞台はSNSです。企業やブランドは、SNSを上手く活用することによって、顧客が受けるカスタマーエクスペリエンスの実態を調査することができます。顧客の生の声に耳を傾け、常に新しいニーズが何であるのか把握し続けることで、商品・サービスの質の向上や、カスタマーサービスの充実につなげることができます。また、結果的には顧客が求める商品・サービスの開発・提供にも繋がるため、短期的には顧客満足度が向上し、長期的には顧客ロイヤリティが向上するでしょう。
2. オムニチャネル戦略
様々なパーソナルデバイスが市場に出回った結果、顧客が企業やブランドとコミュニケーションを取る場は無限と言っていいほどに広がってきています。カスタマージャーニーマップを一目見れば分かるように、デジタル化が進んだ現代では、企業と顧客の間にさらに多くのタッチポイントが形成されており、各タッチポイントで有効なアプローチをとっていくことが企業が顧客と良い関係を築くための第一歩となるでしょう。そこで、オムニチャネル戦略を採用し、カスタマーエクスペリエンスを顧客にとって一貫性のあるものにしていくことが重要です。顧客を取り巻く全てのチャネルが一貫性を持ってシームレスに連携することで、利便性が向上するだけでなく、顧客が企業やブランドに対して一貫したイメージを持つようになり、快適なエクスペリエンスを受けることで顧客満足度が向上し、結果的に顧客ロイヤリティの向上にもつながります。
3. パーソナライゼーション
一口に顧客と言っても、世の中には様々なバックグラウンドを持った人々が異なる関心を持ち、それに合わせてニーズも少しずつ違っています。それにも関わらず、顧客というまとまりに対して同じように働きかけているようでは、顧客の心に響くサービスを提供することはできません。顧客をよく観察し、様々なニーズを把握した上で顧客をセグメント化して、セグメント毎に異なるアプローチをとっていくことができれば、異なったニーズにも効果的に働きかけることができます。このように、パーソナライゼーションを進めることによって、顧客は企業やブランドに特別感を感じます。このようにして、顧客のブランドに対する愛着を湧かせることでロイヤリティを高めることができます。
顧客ロイヤリティ構築の上で意識すべき3つのこと
企業がカスタマーエクスペリエンスの中でも、特に次の3つの点を意識することで、顧客ロイヤリティを向上させて顧客離反を防ぐことができるでしょう。
1. アクセスのしやすさ
企業は、顧客がいつでもどこでもすぐにサービスにアクセスできているか注意を払うことが重要です。サービスに簡単にアクセスできるようにしているだけで、ブランド評価が上がり、新規顧客がブランドを選択してくれる可能性が高まります。逆に、優良顧客であっても、企業が彼らの望むサービスをすぐに提供することができなければ、見切りをつけられ、競合他社へ流れていってしまいます。
このように、アクセスのしやすさは新規顧客獲得や既存顧客の維持において大きな影響があります。アクセスをより容易かつ便利なものにするために、先にも述べたように、企業はサービスにオムニチャネルエクスペリエンスを取り入れると良いでしょう。そうすることで、ターゲットオーディエンスは、PCやモバイルなどのオンライン上、または実際に店舗で店員と対話する時にスムーズに企業とコミュニケーションをとることができるようになり、よりシームレスで自然な形で販売を成約させることができます。
2. 役立つカスタマーサービスの提供
カスタマーサービスの充実によっても、企業は顧客にブランドの良い印象を持たせることができます。カスタマーサービスには、商品の送料無料、返品ポリシー、プロモーションオファー、および製品に関する問題のカスタマーサポートが含まれます。セールスフォース社の調査によると、57%の顧客が、競合他社の方が良いカスタマーエクスペリエンスを提供していたという理由から、ブランドを切り替えています[4]。 優れたカスタマーサービスは、顧客ロイヤリティを高めるだけでなく、顧客離反防止に大きく働きかけるのです。業界に関係なく、カスタマーサービスは、カスタマージャーニー上でもブランドの真価を測ることのできる重要なポイントであり、顧客のその後のブランド選択を左右します。そのため、カスタマーサービスを充実させ、信頼性を示すことで、顧客ロイヤリティにポジティブな影響を与えることが重要です。
3. ブランドアイデンティティの強調
顧客は、ブランドそのものとブランドが提供するカスタマーエクスペリエンスを結びつけて考えます。優れたエクスペリエンスを提供できれば、顧客はそのブランドにポジティブな感情を抱きますが、よくないエクスペリエンスを提供してしまった場合も、その悪いイメージはブランドに結び付けられます。したがって、顧客や社会が持つ企業のブランドイメージは、企業が提供するカスタマーエクスペリエンスによって決定するということです。アマゾン社が開発したAIアシスタントのアレクサを例にあげて考えましょう。アレクサを使うと、顧客がアレクサに話しかけるだけで、アレクサがエアコンの温度調整などの身の回りのことを自分の代わりにやってくれたり、明日の天気の情報などをすぐに提供してくれます[5]。顧客がこのような体験をした時、顧客はアレクサというブランドを、この満足した体験に結び付け、このブランドに対してポジティブな感情を持つようになります。
Loureiro(2012)は、顧客のブランド愛はブランドへの信頼や関係性を持続させようとする傾向を強化し、ロイヤリティを向上させることを示しています[6]。その感情的なつながりを養い、ポジティブなものにしていくことで、ブランドに対する顧客ロイヤリティを高めていくことができます。かつてないほど多くの製品とサービスが溢れかえる時代でも、顧客とポジティブな感情的つながりを養うことができれば、ブランドが他大多数から自身を区別し、顧客にとって代替の効かない存在であるとアピールすることができるのです。
さいごに
このように、顧客ロイヤリティを高めることで、企業は様々なベネフィットを受けることができます。そしてここで紹介したように、顧客ロイヤリティを向上させるための近道はカスタマーエクスペリエンスをしっかりと観察、分析し、顧客に寄り添ったサービスを提供することです。デジタルトランスフォーメーションが進み、それと共にカスタマーエクスペリエンスの形も日々複雑化していきますが、その特徴を掴み、顧客ロイヤリティ構築のためにいち早く行動を起こすことができれば、企業は競合他社と差別化を図ることができるでしょう。
上記で述べたように、このデジタル化された時代に顧客ロイヤリティを向上させるために重要なものは、カスタマーエクスペリエンスに気を配ることです。優れたカスタマーエクスペリエンスを改善するため、カスタマーポータルを活用して顧客とのコミュニケーション向上を図ることも1つの手となるでしょう。
参照文献
[1] Brian Tracy International, “The 80 20 Rule Explained”
[2] Invesp, “Customer Acquisition Vs. Retention Costs – Statistics And Trends”
[3] PwC, “Customer Experience is everything”
[4] Salesforce, “New Research Uncovers Big Shifts in Customer Expectations and Trust”
[5] Amazon, “Alexaとできること。”
[6] Loureiro, S., Ruediger, K. & Demetris, V. Brand emotional connection and loyalty. J Brand Manag 20, 13–27 (2012). https://doi.org/10.1057/bm.2012.3
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