【完全版】 カスタマーエクスペリエンス(CX)とは?わかりやすく解説
カスタマーエクスペリエンス(CX)は、企業や顧客にどのように関わってくるのでしょうか。CXの定義やCXのメリット、成功事例や戦略などをわかりやすく紹介します。
目次
カスタマーエクスペリエンス(CX)とは
カスタマーエクスペリエンス(Customer Experience)とは「ある商品やサービスの利用における顧客視点での体験」のことです。しばしばCXと略され、「顧客体験」や「顧客エクスペリエンス」とも言われています。
今日のデジタル社会においては、デジタルカスタマーエクスペリエンス(DCX)に気を配る企業も増えてきました(第4章)。またCXはB2Cだけでなく、B2Bでも注目されるようになってきています(第5章)。
カスタマーエクスペリエンスの質を高めることを「CX向上」といいますが、B2C企業はCXを向上させることで顧客離れの防止、リピーター客の獲得、ブランドイメージの向上、既存顧客による宣伝効果などのメリットを得ることができます(第6章)。
本記事では、上記に加えCX向上戦略(第7章)や、CXの改善事例(第8章)も紹介しています。
『多くの企業が見落としている3つのCX戦略とは?』資料を読む
カスタマーエクスペリエンスの特徴(第3章):
カスタマーエクスペリエンスは、顧客が商品を購入する際の体験にとどまらず、購入前の段階から購入後のサポートまでを通した、購買プロセスをとりまく顧客視点からの体験全体を対象としています。
また、カスタマーエクスペリエンスは、その商品やサービス自体が直接的に顧客に提供する体験だけではなく、その購入により顧客に非直接的にもたらされた体験も含みます。例えば、商品を提供する企業の雰囲気が良かったり、商品購入後に丁寧なサポートがあることで、顧客が得る満足感もカスタマーエクスペリエンスの一部です。
カスタマーエクスペリエンスの注意点:
カスタマーエクスペリエンスを捉える際に気をつけなければならないのは、カスタマーエクスペリエンスを企業視点で考えないようにすることです。
「カスタマーエクスペリエンス」はあくまでも顧客視点での体験のことを指しており、企業側が顧客に提供したエクスペリエンスを、そのままカスタマーエクスペリエンスと捉えるのは危険です[1]。
ユーザーエクスペリエンス(UX)との違い
カスタマーエクスペリエンスとよく似ており混同されがちな言葉に、ユーザーエクスペリエンス(UX)という言葉があります。
UXが個々の体験のことを指すのに対し、CXは企業の商品・サービスの利用者(ユーザー)が、それらの利用を通じて受けた体験全体のことを指しています[2]。
CXはUXを包含したものです。例えば、とある商品を購入した際、UXでは『商品購入前のエクスペリエンス』『購入時のエクスペリエンス』『購入後のエクスペリエンス』などと複数のエクスペリエンスが生じる一方、CXでは『購買プロセス全体でのエクスペリエンス』と1つのエクスペリエンスが生じます。CXは、UXが積み重なったものと考えると分かりやすいでしょう。
カスタマーエクスペリエンスの2つの特徴
① 長期性
カスタマーエクスペリエンスの特徴の一つ目は、長期性です。例として、カメラを購入するために同じ家電量販店を訪れた2人のエクスペリエンスを比べてみます。
AさんとBさんは、それぞれが「より良い写真を撮りたい」という同じ動機をもち、新しいカメラを購入することにしました。
その結果、2人が経験したエクスペリエンスは以下のようになりました(2人が買うカメラは同スペック・同価格ですが、AさんはブランドXから、Bさんは売場が少し離れたブランドZから購入したとします)。
AさんとBさんは、同じニーズをもって同じ行動をしたにも関わらず、結果的に受けたカスタマーエクスペリエンスには大きな違いが出てきてしまいました。
優れたカスタマーエクスペリエンスを提供するには、商品としての性能が高いだけでは不十分です。そのため、企業はただ良い製品やサービスの提供を目指すだけでなく、購入前から購入後のサービスまでのプロセス全体のカスタマージャーニーに気を配る必要があります。
B2Bビジネスにおいては、B2Cビジネスに比べて、カスタマージャーニーにおける購入前のステージが重要になっています。
B2Bにおける購買決定者の82%は、購入前にベンダーが提供するコンテンツ(ホワイトペーパーや事例集など)を最低5つは閲覧し[3] 、77%は詳細なROI分析をし、また52%は購買に関わるグループメンバーを増員するなどして、より慎重に購買プロセスを進めています[4]。
また、近年のB2Bにおける購買サイクルは長期化の傾向が見られています。購買決定者のうち、58%は前年よりプロセスが長くなったと回答し、短くなったと回答した人の割合はわずか10%でした[4]。
そのため、ベンダーやサービス提供者は、CXが長期戦になるということをしっかり認識した上で、取り組む必要があるでしょう。
② 非物質的価値
カスタマーエクスペリエンスのもう1つの特徴として、「非物質的価値」の重要性を認識しておく必要があります。
カスタマーエクスペリエンスにおける「物質的価値」とは、商品やサービス自体の質や価格が示す価値のことです。一般的に、その商品の物質的価値が高いほど、顧客が得るカスタマーエクスペリエンスは向上すると考えられています。
一方「非物質的価値」は、商品自体の物質的価値以外で顧客に提供される価値のことを指しています。それでは、非物質的価値にはどのようなものがあるのでしょうか。非物質的価値は完全に言語化できるものではありませんが、ここでは、代表的とされる感覚的価値と心理的価値を紹介します。
感覚的価値
感覚的価値は、カフェを訪れた時に感じる居心地の良さや快適さに代表される、人間の感覚に訴えかけるような価値のことを指します。これは、店員の対人スキルを向上させたり、空間を清潔に保つことで向上します。
ここでも、提供する感覚的価値が高いカフェ(上)と低いカフェ(下)を比べてみましょう。
上記の例から分かるように、カスタマーエクスペリエンスを形作るのはコーヒーそのものだけではありません。
物質的価値がそれほど高くなくても(=コーヒーがそこまで美味しくなくても)、感覚的価値が高ければカスタマーエクスペリエンスが最悪になることはありませんし、逆にどれほど高い物質的価値を提供しても(=コーヒーがいくら美味しくても)、非物質的価値が低ければ総合的なカスタマーエクスペリエンスがマイナスになってしまうことがあります。
また、感覚的価値が向上することで、顧客が購入した商品やサービスの知覚価値が向上し、それが属するブランドや企業に好意的な印象を抱かれるようになることがあります。これは、次に説明する心理的価値を支える基盤にもなり得ます。
心理的価値
もう一つの方の心理的価値とは、顧客が特定の商品やサービスの利用を通して生まれる心理状態に対して感じる価値のことです。
例えば、顧客はハイブランドの商品を購入することで、その商品自体だけでなく、その商品を使う自分自身にも価値を感じることがあります。これは、ブランドアイデンティティに自身のアイデンティティを重ね合わせているためです。また、ハイブランドの商品でなくても、有名人が身につけていたものを購入する場合にも当てはまります(その有名人のアイデンティティを、自身のアイデンティティに結びつけているということになるためです)。
他に、アーティストの応援行為による消費も心理的価値に関連している場合があります。例えばアーティストのライブに来る者の中には、そのライブを鑑賞するためだけでなく、そのアーティストを応援するためにライブに参加している者や、「そのライブに参加している自分自身」に価値を見出している人もいます。
このような非物質的価値の特徴を理解した上で、しっかりとした顧客対応を心がけることで、優れたCXを提供し、顧客満足度を向上させることにつながるでしょう。
デジタルカスタマーエクスペリエンス(DCX)とは
現代では、デジタル技術の進化と共に購買プロセスが大きく変化し、B2B、B2Cに関わらず、誰もがあらゆるタッチポイントで一貫したサービスを求めるようになりました。
現に、B2Bの購買決定者のうち80%は、B2Cと同様のカスタマーエクスペリエンスを受けることを期待しています[5]。近年では外出自粛の風潮も強まり、あらゆる体験のオンライン化が一般的になってきました。
このような背景から、企業はオンラインでのエクスペリエンス、すなわちデジタルカスタマーエクスペリエンスにも気を配る必要がでてきました。上記ではオフラインにおけるCXの具体例を提示しましたが、ここではオンラインにおけるCXの例について説明します。
オフラインでは実店舗の環境や店員の対応がカスタマーエクスペリエンスを形作りますが、オンラインではあらゆるデジタルタッチポイントにおける顧客への対応がカスタマーエクスペリエンスを構成しています。
例えば、購入前の顧客との接点としては、オンライン広告やメルマガ配信、インフルエンサーによる投稿などが考えられます。購入時にはウェブサイトの操作のしやすさや、サイズ選択の際のスムーズな誘導がCXの質を高めることになり、配達の際も顧客が商品の位置を把握できることが大きな安心感につながります。
万が一期待通りの商品を受け取ることができなかった場合でも、丁寧なサポート体制が整っていれば、顧客からの評価挽回のチャンスがあります。そして購入後、顧客が受けたエクスペリエンスはデジタル環境上で共有され、他の顧客の意思決定に影響を与えることになります。
『デジタルカスタマーエクスペリエンス(DCX)とは?』記事を読む
また、近年オンラインカスタマーエクスペリエンスを向上するものとして、新たに注目されているのは、セルフサービスポータルです。
セルフサービスポータルは、ユーザーがデジタルチャネルを通じて問題を独自に解決できるようにするソリューションのことを指します。デジタルセルフサービスを導入すれば、顧客はトラブル時でもサポートスタッフに連絡することなく、簡単に操作できるインターフェースを通して情報を提供できます。
デジタルセルフサービスを導入することで、顧客は迅速かつ簡便なサポートを受けることができるため、良質なカスタマーエクスペリエンスの提供を実現することができます。
B2Bにおけるカスタマーエクスペリエンスとは
これまでB2CにおけるCXを説明してきましたが、B2BにおいてもCXは非常に重要です。現に86%のB2B企業のCMO(最高マーケティング責任者)が、CXは経営において重要だと考えており[6]、B2B企業の71%が、自社の顧客企業がB2C並みの素早い応対やチャネル横断での一貫した体験などを求めていると回答しています[7]。
セールスフォースのレポートによると、ビジネスにおける購買担当者の82%が消費者レベルのCXを望んでおり、57%がより良いCXを求めてベンダーを切り替えたことが明らかになっています[8]。
このことから、B2B企業においても企業顧客に対してサポートを充実させることで、顧客との間に絆を築き、ビジネスの質を高められることが示唆されました。
しかし、B2CとB2Bでは顧客との関係性も意思決定の構造も違うため、B2BのCXをB2CのCXと同じように考えてはいけません。
B2Cにおける顧客との関係性は短期的なものが多いものの、B2Bであると長期的なものが多いです。また意思決定に関しても、B2Cでは個人の短期的な判断プロセスを介して行われるのに対して、B2Bでは企業全体のステークホルダーによる議論を通して、さまざまな条件が考慮された上でなされるなど、全く性質が違います。
CX担当者は、このようにB2Bにおける顧客がB2Cにおける顧客と全く同じようには行動しないという点を意識し、B2Cにおいて効果のある施策がB2Bにおいても有効なのかを慎重に判断する必要があります。
ガートナー社のアンケートは、B2Cと比較してB2BのCXでは、コミュニケーション面での対応やアフターセールス、サービスデスクなどのサポート、ニーズの聞き取りが重要と認識されていることを明らかにしました[9]。
カスタマーエクスペリエンス(CX)向上がもたらすメリット
優れたカスタマーエクスペリエンスを提供することで、企業は競合優位性を得て、差別化を図ることができます。
大手コンサルティング企業PwCの調査では、優れたカスタマーエクスペリエンスを提供する企業から商品を購入するために、競合商品より高い費用を払う消費者は86%に上ることが報告されています[10]。また、年商10億ドル(約1,150億円)以上の企業であれば、カスタマーエクスペリエンスの向上に適切な投資をすることで、3年以内に700万ドル(約7億円)の増収を見込むことができると言います[12]。
優れたCXを提供できれば、売上向上を期待できるのです[11]。これは、優れたCXを提供することで、企業が以下の4つのようなメリットを受けているためです。
4つのメリットとはそれぞれ、①顧客離れ防止 ②リピーター客獲得 ③ブランドイメージ向上 ④既存顧客による宣伝効果 です。
1. 顧客離れの防止
まず、CXを向上させることで顧客離れを防ぐことができます。逆に、顧顧客が満足するエクスペリエンスを受けなければ、競合他社に乗り換えます。
フォーラム・コーポレーションの調査においては、70%の顧客は企業から満足なサービスを受けられなかった時にブランドから離反すると答えています[13]。さらにPwCの調査からは、一度よくない体験をしただけでもブランドから離反する顧客が17%存在することが分かっています[10]。
企業は顧客を1人失うことで、顧客の生涯価値(CLV。一人の顧客の生涯にわたって期待できる購買活動のこと)を失ったことになるため、顧客の損失は長期的に見ても企業にとって大きな打撃になります。
同時に、顧客が離反したということは、その顧客が新しいブランドに乗り換えてたということを指すため、競合他社に予断を許していることにもなっています。
離反顧客分の新規顧客の獲得は簡単にできることではありません。「新規顧客の獲得には既存顧客維持の5倍のコストがかかる」という1:5の法則が、その難しさを示しています[14]。ここから、離反顧客を生み出さないために、顧客が満足するサービスを提供していくことには大きな価値があることがわかります。
2.リピーター客の獲得
ある商品・サービスの利用によって顧客が満足感を得た場合、同様の体験を求めて同一商品・サービスを利用する顧客(=リピーター)が出てきます。
ウォーターマーク・コンサルティング会社の調査によると、優れたカスタマーエクスペリエンスを提供している企業は、良くないカスタマーエクスペリエンスを提供する企業の3倍ものリピーターを獲得しています[15]。
またフォレスター(2019)の調査では、CXのリーダー企業の顧客はCXに遅れている企業の顧客と比べ、リピーター顧客を得る確率が7倍高いことが明らかになっています[16]。
リピーター客は、新規顧客向けの積極的な販促を行わなくても、商品・サービスを購入し続けてくれるため、企業の長期的な売上の維持に好影響を与えます。企業は優れたカスタマーエクスペリエンスを提供することによって、売上の基盤を固めることができるのです。
3. ブランドイメージの向上
顧客がある商品・サービスの利用によって良い体験を受ければ、顧客はそのブランドに好感を抱き、信頼を置くようになります。
ブランドイメージが向上すれば、顧客ははじめに購入した商品だけでなく、それと同じブランドのものを購入する確率も高くなります。フォレスター(2019)の調査では、CXのリーダー企業がアップセル(既存顧客がいつも購入している商品やサービスを、より上位の高価なものに移行してもらう営業活動)に成功する確率が8倍以上高いことを示しました[16]。
このため、ブランド力を高めることは、自社商品の価値を高める作用を持ち、競合他社との差別化につながります。
4. 既存顧客による宣伝効果
優れたカスタマーエクスペリエンスを提供し続けることができれば、その体験を受けた顧客のロイヤリティを向上させることができます。そして、顧客ロイヤリティが高い顧客は、好意的な情報を周りに発信するようになります[17]。
最近では、多くの口コミが狭い知り合い同士の間に留まらず、SNSを通して大々的に為されるようになってきました。企業がマスメディアを通して一方的に広告を発信した時代とは違い、パーソナルデバイスが発達した現在では、顧客という存在がいつでもどこでも商品やサービスについての情報を発信をすることができるようになったのです。
顧客がネット上などで、企業の商品・サービスについてのポジティブなクチコミを広げれば、企業がコストをかけずとも宣伝することができるので、この変化は企業にとって大きなビジネスチャンスであるとも言えるでしょう[18]。
マーケターの間で「最高の広告は満足した顧客である」と囁かれているように、ポジティブなクチコミは強いマーケティング効果を発揮します。
しかし、このトレンドには落とし穴もあります。消費者が好意的なクチコミを広めるとは限らないためです。潜在的消費者にとって、顧客の素朴な意見が中立性をもった意見として企業が発信する情報よりも意思決定に大きな影響を及ぼしうることを考えると、企業は顧客を「情報発信者」として捉え直して関わり方を再考する必要があります[19]。
特に、大きな影響力を持った個人が商品やサービスについてのネガティブな情報を発信した場合、企業にかかる負担は大きくなります。この時代、既存顧客がポジティブな情報を発信したくなるような、質の良いカスタマーエクスペリエンスを提供できるよう、企業は一層の注意を払う必要があります。
カスタマーエクスペリエンス(CX)向上戦略
優れたCXを提供するためには、顧客を理解し、顧客中心にサービス提供を行う必要があります。ただ、顧客を深く理解するのも、顧客に合ったサービスを提供するのも、決して簡単ではありません。顧客にとって価値のあるCX提供を実現するために、以下のことを意識してCX向上戦略を立てましょう。
手順① ペルソナ/カスタマージャーニーマップの作成
優れたカスタマーエクスペリエンスをデザインする際、まず初めに最も重要なのは顧客の視点に立って考えることですが、企業内の人間が顧客視点に立つことは簡単ではありません。顧客視点からの思考を支えるのは、ペルソナとカスタマージャーニーマップの作成です。
ペルソナ作成
ペルソナ作成は、ターゲットオーディエンスを知るために重要なプロセスです。ペルソナとは、企業が提供する商品やサービスの典型的な顧客像のことであり、新規顧客獲得やターゲットオーディエンスに合わせたエクスペリエンス提供の基盤になります。
ペルソナを作成する際には、企業が想定しているターゲットに囚われず、既存の顧客情報や市場調査の結果などの客観的な情報を参考にし、実際の顧客像を捉えるよう心がけましょう。この時、ビジネスモデル(B2BやB2C)にもよりますが、ペルソナ情報は年齢や性別などの基本情報だけでなく、年収や家族構成、社会的・文化的習慣などをできるだけ多く収集・分析して、ペルソナの具体的なライフスタイルを想像できるようにすると、顧客が重要視するタッチポイントの想定がしやすなります。
また通常、実際の顧客の姿は1つに絞れないため、さまざまなタイプのペルソナを作成すると良いでしょう。このことで、実際の顧客の姿が捉えやすくなるでしょう。
カスタマージャーニーマップ作成
カスタマージャーニーマップの作成は、ペルソナの行動を理解するための作業です。企業はカスタマージャーニーマップを通して、顧客と企業とのはじめのタッチポイントから、購入の瞬間、そして購入後に至るまでの経路を理解することができます。
カスタマージャーニーマップ イメージ図
『カスタマージャーニーマップとは?作り方を含め解説』記事を読む
ペルソナもカスタマージャーニーも、さまざまな要因によって常に変化し続けていくものです。一度これらを作ったら完成と見なすのではなく、都度見直してアップデートしていくことは非常に重要です。
手順② 戦略策定/現状見直し
次に、ペルソナやジャーニーマップから得られる情報を基に戦略を定義し、改善点を特定して商品/サービスをアップデートするフェーズに入ります。
ペルソナやジャーニーマップを用いて戦略策定や現状見直しを行うことで初めて、カスタマージャーニーマップまで作成した真価が発揮されます。社内全体でペルソナやマップを共有した上で戦略策定を行うことは、社員の間に共通認識を持たせることでまとまりが生み、効率化も促進します。
この段階では例えば、ジャーニーマップを見返してマイクロモーメント(顧客が何かに対する潜在的ニーズを持っている瞬間)を特定して新しい事業戦略を練る、といった取り組みができます。
CX戦略立案の際の2つのポイント
上記の手順を踏んでCX戦略を構築する際、現代のデジタル社会において顧客が企業に求めていることに注目する必要があります。
現代の顧客は、どのチャネルからアクセスしても一貫性が保たれていて、コンテンツがパーソナライズされていて、簡単に操作できるエクスペリエンスを求めているため、顧客が一般的にたどるジャーニーの各ステップにおいて、これらを意識した最適なデジタルエクスペリエンスを用意することがCX向上には非常に重要です。
ここでは、①一貫性と②パーソナライゼーションに着目して説明します。
1. 一貫性
顧客があらゆるタッチポイントを通して情報を受け取るようになった現在、一貫性が保持できているかという点には気をつけなければなりません。
なぜなら、もし企業側がタッチポイントごとに一貫したイメージを訴求できていなければ、顧客は上手くブランドを捉えることができず、インパクトのあるメッセージが伝わらないためです。情報に一貫性が保たれていれば、顧客は企業からのメッセージを捉えやすくなるため、顧客とのコミュニケーションが円滑になり、CXの向上が期待できます。
あらゆるチャネルで一貫性のあるコンテンツを提供するには、まずは情報を提供する企業側のシステムが整理されている必要があります。
バックエンドシステムや顧客データを統合し、社内リソースの一元管理が行われて初めて、従業員が社内外のシステムを効率的に管理できるようになり、顧客へのシームレスなエクスペリエンスの提供が可能になります。
2. パーソナライゼーション
現代の顧客は各自の嗜好に基づいたコンテンツの提供を期待しているため、顧客の属性・行動履歴などのデータの分析結果から各ユーザーの嗜好を予測し、各々のユーザーに合ったコンテンツ提供を行うように意識しなければなりません。
当然顧客は自分が関心のないものよりも、関心のあるものを目にした時の方が内容に興味を示し、その商品やサービスに好感を抱くようになります。そのため、より最適なパーソナライゼーションを行った企業が、より質の高いCXの提供を実現することができます。
顧客の期待通りにカスタマイズされたエクスペリエンスを提供できなければ、顧客の行動に悪影響が出ることは、データからも示されています[20]。
- 顧客の74%がパーソナライズされていないと不満に思う
- 消費者の80%がパーソナライズされたエクスペリエンスを提供するブランドから購入する
- 消費者の66%はパーソナライズされていないコンテンツに遭遇すると購入を思いとどまる
最適なパーソナライゼーションを行うためには、顧客の属性・行動履歴などのリアルタイムでのデータを収集し、整理し、分析し、反映させる必要があります。そのため、データの収集源を確保し、社内でのデータ管理体制を整えることがパーソナライゼーションを実現するための基盤となります。
手順③ 定期的な見直し
企業はCXを高い水準に保ち続けるためには、定期的に現状の見直しを行うことが大切です。なぜなら、現状は常に変わっていくからです。
外部環境の変化と共に、顧客のニーズも絶えず変わっています。その中で同じ戦略をとっていれば、企業は時代遅れの戦略を取り続けることになり、顧客にとって最適なエクスペリエンスを提供することはできません。
詳細は『デジタルトランスフォーメーションとは?』記事内のアジャイル型ビジネスモデルについてをご覧ください。
CXの効果を左右する鍵 - オペレーション
上記の手順を踏む上で、真にCXの向上を達成するためには社内オペレーションを整える必要があります。
運用システムがシンプルで合理的なCXをサポートできていなければ、いくら他の条件が揃っていても、顧客への価値提供に失敗し、顧客が離反してしまいます。
それでは、オペレーション体制を整えるにはどうすればいいのでしょうか。ここには、①顧客向け・社内向けシステムの改善、②データ活用 の2ステップがあります。
① 顧客向け・社内向けシステムの改善
i - 顧客向け
顧客に商品やサービスを快適に利用してもらうには、優れたカスタマーエクスペリエンスの提供を念頭に置き、顧客だけでなく自社ユーザーにとって使いやすいシステムが必要です。
コンテンツがバラバラであったり、UIが分かりづらく、またサイト訪問者の分析もできないようなサイトでは、優れたカスタマーエクスペリエンスの提供は困難です。
ベルギーに本社を置く総合金融機関、大手KBC銀行グループの一つであるKBC銀行アイルランド社は、弊社のポータル製品『Liferay DXP』を用いてコーポレートサイトを刷新。
旧サイトでは、新サービスの市場投入への迅速な提供ができておらず、またUIも分かりづらく口座開設等の申請作業に多くの不満がでていました。
同社は、Liferayがサポートするアジャイル方式により、短期間での開発と戦略的な段階的ロールアウトに取り組んだ結果、わずか4ヶ月で新コーポレートサイトを公開。機能面でも多くのプロセスを簡素化することで、誰でも簡単に使いやすいサイトが誕生しました。
結果として、コンバージョン率が30%も増加するなど、カスタマーエクスペリエンスの向上に成功。今後も個々のニーズに応じたサービスを提供する予定です。
ii - 社内向け
顧客に良いサービスを提供するためには、まず社内システムの基盤がしっかりしている必要があります。基盤を安定させるためには、積極的にテクノロジーを活用し、社内の効率化を推進することが大切です。
具体的には、セルフサービスを活用した単純作業の自動化や、サービスチャネルの統合による効率的なシステム管理、社内リソースの一元管理に取り組むと良いでしょう。これらを実現することで業務効率が向上し、顧客戦略の構築に集中できる環境が生まれます。
② データの活用
カスタマーポータルやその他システムが連携されれば、これまでサイロ化されていたデータを一元管理できるようになるため、従業員の負担が減るだけでなく、データの効果的活用が可能になります。
データは、手順①で紹介したペルソナやカスタマージャーニーマップの見直しや、手順②において紹介したパーソナライゼーションの作成に役立ちます。アップデートされたデータを基にさらに細かくペルソナを割り出し、戦略を改訂していくことで、その時々に最適なCXを提供し続けることができます。
以上が、CX推進戦略です。これまでの内容を図にまとめると、以下のようになります。
カスタマーエクスペリエンス(CX)向上事例
B2B、B2Cにおいても、顧客が満足するCXを提供するには、上記で記載した戦略や丁寧・親切な顧客対応はもちろんですが、高品質の公開ウェブサイトの構築や、カスタマーポータルなどのポータルソリューション導入もひとつの案となるでしょう。
しかしながら、評判の良いソフトウェアを選べばCX向上を期待できる、といったことはなく、企業独自の商品・サービス、日々変化する顧客の要望に対応できるソフトウェアが必要となります。ここでは、CX向上のためソフトウェアを導入した2組織の事例を紹介します。
事例① パナソニック コネクト様
パナソニックグループにおいて、B2Bソリューション事業成長の中核を担うパナソニック コネクト様は、B2B事業の統合窓口となるポータルがなかったため、Web上で一貫性のある統合デジタルユーザー体験の実現と販売機会創出強化を目的としたB2B会員ポータル『My Panasonic Connect』をLiferayで構築。
要件定義からローンチまでを4ヶ月という短い期間で行い、目標達成への第一歩となるポータルが誕生しました。スモールスタートとなったため、現在は限られた機能のみを搭載していますが、今後は顧客のセルフ差ラーニング強化や新規会員獲得に向けたコンテンツの拡充、おすすめ提案などのパーソナライズ機能、外部アプリとのSSO連携など、優れたCX提供に向け多くの機能追加を予定しています。
事例② 米国政府機関が運営する Grant.gov
Grants.gov(連邦政府補助金の申請や検索等に用いられるウェブサイト)では、17のレガシーシステムを抱えており、ユーザーに対して一貫性のないエクスペリエンスしか提供できていなかったものの、統合プラットフォームを構築した結果、週400万人以上のサイト訪問者に対し、シームレスなエクスペリエンスの提供に成功したほか、大幅なコスト削減も実現できました。
いずれの事例も、ただ単にソフトウェアを導入しただけでなく、顧客視点で顧客のニーズを深く分析したことが鍵となりました。そのため、優れたCXを提供するための基盤として、最新鋭のポータルソリューション導入は、非常に有効な手段の1つであると言えるでしょう。
さいごに
カスタマーエクスペリエンス(CX)とは「ある商品やサービスの利用における顧客視点での体験」のことで、顧客が商品を購入する際のエクスペリエンスにとどまらず、購入前の段階から購入後のサポートまでを通した、購買プロセスをとりまくエクスペリエンス全体を対象としています。
優れたCXの提供は、競合優位性を得る上で、B2CだけでなくB2Bにおいても非常に重要な要素となっています。
また、優れたCXを提供できれば、企業は ① 顧客離れの防止、② リピーター客の獲得、③ ブランドイメージの向上、④ 既存顧客による宣伝効果 のメリットを得ることができますが、逆にネガティブなCXを提供してしまった場合、これらのメリットを得ることができないばかりか、ブランドイメージの悪化や顧客離れに繋がってしまいます。
そのため、カスタマーエクスペリエンスの意味や重要性を理解し、また顧客視点で「優れたカスタマーエクスペリエンスとは?」ということを考え、戦略立案フェーズに移ることが、優れたCXを提供する上で必要な第一ステップとなるでしょう。
参照文献
[1] Super Office, “7 Ways to Create a Great Customer Experience Strategy”
[2] Nielsen Norman Group, "User Experience vs. Customer Experience: What's the Difference?"
[3] Forrester, “Myth Busting 101: Insights Into The B2B Buyer Journey”
[4] Demand Gen Report, 2019, “Data: The Key Differentiator In B2B Marketing”
[5] Accenture, “Put Your Trust in Hyper-relevance”
[6] Lumoa, "5 Trends in B2B Customer Experience Management"
[7] Accenture, “Accenture customer experience and Accenture Strategy 2016 CSO Insights Channel Performance Study”
[8] Salesforce, “New Research Uncovers Big Shifts in Customer Expectations and Trust ”
[9] Gartner, カスタマー・エクスペリエンスサミット2018
[10] PwC, “Experience is everything: Here’s how to get it right”
[11] hotjar, “Understanding customer experience”
[12] Qualtrics, 2018, “ROI of Customer Experience, 2018”
[13] Harvard Business Review, “Learning from Customer Defections”
[14] invesp, “Customer Acquisition Vs. Retention Costs – Statistics And Trends”
[15] Watermark Consulting, “The Customer Experience ROI Study”
[16] Forrester, "Economic Impact of Qualtrics Customer XM"
[17]フィリップ・コトラー、ケビン・レーン・ケラー著、『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント基本編 第3版』丸善出版株式会社, 2017年
[18] Forbes, “Why Word of Mouth Marketing Is The Most Important Social Media”
[19] A・O・ハーシュマン著、『離脱・発言・忠誠:企業・組織・国家における衰退への反応』ミネルヴァ書房、2005年
[20] Forbes, "50 Stats Showing The Power Of Personalization"